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青山堂運歩 by 川島陽一

明日に架ける橋

紀元前五十五年、ユリウス・カエサル=ジュリアス・シーザーはガリア(現フランス)の地への遠征のさなか、ライン川渡河作戦において、十日間でその激流の川に橋を構築した。古代ローマの土木技術はとても優れていました。
カエサルは、『ガリア戦記』(当時ローマ元老院に戦時報告書を定期的にせねばならない義務があり、ガリア戦記はその報告書であった)に、ライン渡河作戦時の橋の構造まで、つまり、設計書まで、添付していました。ことほど左様に、ローマの土木技術はすぐれておりました。その技術の粋とは、ローマの水道でした。

紀元前三一二―紀元後三世紀にかけて建築されたローマの水道は二千年後の今も、多くの都市で実用に供されている。数多くの技術の粋のなかでも、アーチ構造こそはまさしく、技術中の技術でありましょう。特に南仏プロヴァンス地方ニーム近郊の「ポン・デュ・ガール」の美しく壮麗なアーチに、見る人の心は圧倒されます。
ルソー曰く、「この三層からなる素晴らしい建造物の上を歩き回ったが、敬意からほとんど足を踏みこめないほどであった。自分をまったく卑小なものと思いながらも何か魂を高揚させてくれるものを感じて、なぜローマ人に生まれなかったのかとつぶやいていたのだった」、と。 

ローマ様式とは何であったのでしょう。
紀元前七五三年ローマ市の誕生より紀元前五○九年には共和制へと移行、様々な変遷を経、一四五三年東ローマが滅ぼされるまでおよそ二千年間続くローマの時代がありました。一方ギリシアは紀元前一四六年にローマが地中海を統一するまで続きます。紀元前に、数百年に渡りローマとギリシアは、実に併存していたのです。

建築技術建築様式の歴史の上では、ローマ時代に建築・土木の技術上の革命がありました。それは、
①アーチ
②ヴォールト
③ドーム
アーチを延長したものがヴォールトであり、アーチを一回転させるとドームになります。

ギリシア建築では柱と柱の間の距離は、その上に架け渡す石の大きさで決まることにより、この様式で大きな部屋を作ろうとすると、巨大な石を必要とするのでした。しかし、ローマ人の発明したアーチ・ヴォールト・ドームなどの新技術は、小さな石材を組み合わせることで巨大な空間に屋根を架け渡すことが可能になったのです。以下三つの例を見てみましょう。

ニームの水道橋(ポン・デュ・ガール(現フランス)紀元前二十二年)は三段になる「アーチ」を見ることができます。
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実際の作り方は、
(一)木材で錦帯橋(岩国にある)のような枠組みを作り、
(二)その上に石を積み、
(三)その後木材の型枠をはずすと、
アーチが完成するのです。

コロッセオ(現イタリア・ローマ紀元八十年ごろ)
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アーチが奥行き方向に連続するトンネル状、日本ならばカマボコ型の構造で、ヴォールトといいます。因みに、コロッセオの柱にはギリシア建築の精華が織り入れられており、きざはしの柱はドーリア式、二階の柱はイオニア式、三階の柱はコリント式、ということだそうです。

パンテオン(現イタリア・ローマ紀元百二十年頃)アーチの回転体、お椀型の構造が「ドーム」です。
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パンテオンの時代には、技術革新が進んでおり、パンテオンは直径43,2メートル、高さも43,2メートルという大空間になっています。さらに頂(いただき)の部分には直径七メートルの開口部(穴)が開けられています。

ではアーチ型は、何故強いのでしょうか。
カテナリー曲線というものをご存知でしょうか。カテナリーは、懸垂曲線とも呼ばれ、文字どおり、鎖を鉛直に垂らしたときにできる形状のことです。このとき、鎖の両端を持つことで、鎖自体の自重が作用し曲線ができるのですが、他に力を作用させていないため、この鎖に、当然のごとく、引張力しか働かないのです。
このカテナリーをひっくり返すと、実は、アーチ状になるのです。引張力=カテナリー、圧縮力=アーチ、となるのです。
また、アーチは支持点に大きなスラスト(水平力)と呼ばれる、広がろうとする力が発生します(例えば、プラスチックの定規をアーチの形に曲げようとすると、なかなか維持ができないように)。
アーチをうまく創るためには、このスラストをどうやって処理するのか、ということが建築上では重要な問題となります。
アーチ構造は、上からの荷重に対して両端からの力が作用します。部材を押す力、つまち、圧縮力、です。
重力を分散する構造、アーチ。アーチ橋は、荷重を圧縮力で支える構造。外力と自重の下向きの荷重が圧縮力となり、両端の支点へと伝達されるのです。
 
さて、実は、わたしたちの身体にもアーチ構造があります。
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『頸部前彎療法』の「前彎」をここで考えてみてください。
赤ちゃんの脊柱の二次彎曲=後彎から前彎へ、つまり、「首が座る」、ということを。哺乳類は、人類以外はすべて後彎=四足歩行です。人間のみ直立し、一年余りで歩くのです、二本足で。

わたしたちのアーチは、実はまだあります。二か所。
その一つは両足の裏「土踏まず」であり、もう一か所は「骨盤」です。

土踏まずこそ、わたしたちの全体重を両足で支えているのです。
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日本人は、今はほとんどがコンクリート上を歩いていますけれど、その昔は土の上を歩いていた。下駄、草鞋、裸足でよかった時代がありました。海の近くに住んでいるのであれば、私も海が好きで海近に住んでいますが、裸足で砂のうえを歩けば、地面は地球=アース、体に余分な電気(静電気など)があれば、それを逃がしてくれます。アースされるので体が楽になります。

つぎに骨盤
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わたしたちの骨盤は、アーチ橋と同様の構造となっているのです。人間の大腿骨は内側に傾いているので、股関節でアーチ構造の基礎がつくられているのです。アーチ橋の真ん中にある石をキーストーン(要石(かなめいし))と呼びますけれど、アーチ構造はほかの石がこのキーストーンを持ち上げています。そのような物理的特性を持っているのです。そのために、外観では考えられないような、とても頑丈なものがアーチ橋なのです。骨盤におけるキーストーンは、仙骨(セイクラム=神聖な)および背骨です。仙骨→背骨→軸椎→頭部という一連の流れは、身体の基礎構造でもあります。

アーチ。大切なことをもうお分かりいただけたことと思います。明日に架ける橋、と題を附けました。

そう、サイモンとガーファンクルです。

1970年のグラミー賞最優秀べストアルバム。
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個人的には、アレサ・フランクリンのモノも大好きですし、エルビスの復活コンサートのヴァージョンもかなり素敵です。


 "街でひとりさまようとき、暗闇が訪れて目に映るものすべてがつらいとき、逆巻く波に架ける橋のように、きみの支えになろう"

 軸椎は、いつ如何なるときも、明日に架ける橋のようにあなたに語りかけることでしょう。

*頸部前彎療法 川島整体院・青山堂
代表:川島 陽一
住所:253-0021
   神奈川県茅ヶ崎市浜竹1-11-21 エバーグレース湘南110号室
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