MAGAZINEマガジン

連載

平凡な覚醒 by しろかげ。

ユーコの蒼い夜 4.

*登場人物
ユーコ・・・絵本作家
ナオト・・・ユーコの夫
マリ・・・ユーコの親友、ジャズシンガー
リリィ・・・ユーコの愛猫
ケン・・・蓮華座の男

image4.jpg

瞑想
 
 ネコは何かを咥えて戻ってきた。
 獲物を、わざわざ私の視界に運んでチャラリと落とし、抱えるように丸くなった、誇らしげに。
 
 「ちょっと何それ? 誰かの鍵じゃない」
 
 数珠のような石がキーホルダーに付いていた。
 見せて頂戴、と拾おうとすると再び咥えて歩き出す。逃げるのかと思うと、そのまま芝生の縁でコチラを誘うようにふり返っている。
 仕方がない付き合うかと腰を上げネコに従うと、植え込みの向こう、平らかに開けた芝の中央あたり、蓮華座に座る人影があってハッとした。いつからそこにいたのだろう。
 気配、を抑えて私はその背中に見入った。
 
 神社の黒い結界とは対称的に、彼の瞑想は蒼い月の下で繭のように守られた抱擁を、白く放っている。
 雲の影が彼を避けるように芝を渡った。
 もしかしたらこんな風に呼吸だけにフォーカスされた楽園が私の中心にもあって、白い声を放射しているのかも知れない。それは特別なことではなく彼もきっと、あの声が聞こえているのだと思う。
 
 風が立って、瞑想の結界を破るようにネコが走った、対角に芝を駆け抜け、中心の蓮華座に鍵を投下し、奇襲された男は左回りに体を開いて滑らかにネコの軌跡を追った。その視線を導くように、最初に戻って私の手前でネコは伏せた。
 通り雨のようなシークエンスが去って、清められた沈黙が彼とネコと私を結んだ。彼は私の視線に、驚かず、月を見上げた。さっきより湿度を宿した白い月だった。

つづく>>>
しろかげ。>>>

NEXT

PAGE TOP