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平凡な覚醒 by しろかげ。
ユーコの蒼い夜 2.
*登場人物
ユーコ・・・絵本作家
ナオト・・・ユーコの夫
マリ・・・ユーコの親友、ジャズシンガー
リリィ・・・ユーコの愛猫
ケン・・・蓮華座の男
輪郭
リリィが抱え込んだ蒼いペンダントヘッドを、取り上げて、胸に結び、デッサンのファイルを抱えて私は部屋を出た。
満月は高く君臨し、輝度を保って建物の輪郭を極めている、レースのカーディガン越しに風が湿度を忍ばせて夏の、予感がたちこめる。スニーカーを久しぶりに履いた。装備は身軽に、ポーチをアミダに掛けて。
あっ鍵を忘れた。マンションのエントランスはオートロックでナオトを無粋に呼び起こすのは、酷だ、月の夜を楽しもう。
私はいつも何かが、足りない。要するに私は自信がないのだ、いや根拠のない自信ならある、ずっとそうだった。夜毎マリと語り明かしたのはその不確かな自信をせめて、衝動に置き換えて手繰り寄せようとする実験のような季節だった。
マリは、歌い手で、私は絵を描く。モノを生む為に我が身に宿される何か、について私たちはいつも遠回りな方法で確かめ合っていた、私は、宿すことを怖いと感じている、それを認めたくないのだけれど自分ではないモノを懐胎する度に魂は異界へ、連れ去られるのだ、それは覚悟を私に突きつける。
月は足下に、陰を描かない、夜は私を安心させる。
私の魂は輪郭が曖昧だから黒い声がときおり忍び寄る、今夜も、神社を横切れば近いけれど足が向かない、街灯が暗いせいではない、界を結ぶ隠然とした重力に私の何かが抗うのだ。
広い空を求めて公園まで足を伸ばしベンチに腰を下ろした。習慣のように携帯を開く、つもりがポーチの中にそれが無い、やっ忘れた。
満月は手放すのにうってつけの日。うっかりが過ぎる自分を慰めよう。