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平凡な覚醒 by しろかげ。
ユーコの蒼い夜 1.
*登場人物
ユーコ・・・絵本作家
ナオト・・・ユーコの夫
マリ・・・ユーコの親友、ジャズシンガー
リリィ・・・ユーコの愛猫
ケン・・・蓮華座の男
予感
寝室のナオトはもう寝息を、いつもながら平穏な重低音で響かせていたのでドアをそっと、閉めた。
私は描きかけのデッサンをもう一息で仕上げようとしている。足元をリリィが、白い尾を擦り寄せながら通り過ぎ、窓に寄せた小さな棚の上、私の蒼い石に飛び乗って丸くなった。
夏至に近い満月は地球を最も近く周回し、今や日付変更線を通り越し天頂を、過ぎて、西向きの私の窓辺に光線を下ろしている。深い夜は好きだ。増幅された魂がゆらいでいる。この宇宙はゆらぎから相転移して弾けて生まれた、その残響が今夜も聞こえる。遠いのか、近いのか、内なのか外なのか、おそらくリリィもそれを聞いている。予感、とはそういう類のものなのだ。予感を頼りに人は命を運び、作家は言葉を紡ぎ私は、線を引き色を乗せ画を描く。
朝までに下絵を仕上げて週明けのミーティングに、心を準備しよう。予感、の解読に十分な時間を私は費やしたいのだ。
原稿をスキャンする、電源が入らない。あぁまたリリィだ。ケーブルを辿る私を素知らぬ顔でリリィが眺めている、どうしてネコは愚にもつかないものばかり齧るのか。
仕方がない、お月見がてらコンビニまで歩こう、FAXを送りに。
まだ起きているだろう担当者にメールをすると直ぐに了解と気さくな返信が届いた、続けて鳴ったアラートはマリからのいつもの深夜通信だった、新しいバンドでレコーディングするからイラストを添えてくれないかと。マリはいつも私の予感を鋭敏に察知する。
わかったよ、お月見しながら考えておくね。