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ホリステック・ライフに向けて by 中川吉晴
「行為」の道とは何か -『バガヴァッド・ギーター』を読み解く- vol12
*TAO LABより
同志社大学Well-being研究センターから2021年3月29日に小冊子『ウェルビーング研究 3』が発行されました。
その冊子には当社刊『神の詩 バガヴァッド・ギーター』を引用しながら同志社大学社会学部教授の中川吉晴先生の"「行為」の道とは何か-『バガヴァッド・ギーター』を読み解く- "という論文が掲載されています。
その論文を中川先生及び同志社大学Well-being研究センターのご厚意によりここに転載させていただけることとなりました。
ありがとうございます。
章単位ごとに12回に分け、連載させていただきます。
今回はいよいよ12回め、ラストとなります。
では、今此処にいながら中川先生とともに時空を超えたギーターの旅をお楽しみください。
*12 未来存在としてのクリシュナ
その生涯を世俗社会に生きたクリシュナは、現代において、また未来において大きな意味を有している。クリシュナは一次元的ではなく、多次元的であり、生のあらゆる道、生のあらゆる次元に侵入し、そこを歩んでみせる。大半の宗教や聖者の教えが一次元的であり、それゆえ生の多くの面に対して否定的、抑圧的であるのに対して、クリシュナは生のあらゆる面を受け入れ肯定する。したがって、その測りがたさゆえに、クリシュナを理解することは容易ではない。その意味では、シュタイナーの解釈もいまだ部分的であると言えるであろう。クリシュナは、その全体性と測りがたさゆえに、単なる過去の存在ではなく、人類の未来にこそ属しているのである。
『バガヴァッド・ギーター』をとおしてクリシュナにふれる私たちにとって重要なのは、クリシュナの教えから特定の信条や教義を引き出したり、概念や定式を構築したりすることではなく、クリシュナの多様なヴィジョンに触発されて、各自が生の全体性の理解を深め、その理解を伴って独自の道を見いだし、それを生きることである。
文献
本文中の『バガヴァッド・ギーター』からの引用は、田中嫺玉訳『神の詩 バガヴァッド・ギーター』TAO LAB BOOKS刊による(使用に際して出版社の許可を得た)。『バガヴァッド・ギーター』の数ある邦訳書のなかで田中氏の邦訳を用いるのは、この邦訳ではギーターのスピリチュアリティがよくとらえられていると思われるからである。田中嫺玉氏(1925-2011)は、シュリー・ラーマクリシュナの長大な言行録、マヘンドラ・グプタ著『不滅の言葉』(ブイツーソリューション刊)の名訳で知られる。
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鎧淳訳(2008)『バガヴァッド・ギーター』講談社学術文庫.
付記
本論考は「『バガヴァッド・ギーター』の統合人間学」(『統合人間学研究』2号, 2019年)を改訂したものである。なお初出論文の一部は「カルマ・ヨーガと無心のケア」に転用され、坂井祐円・西平直編『無心のケア』(晃洋書房, 2020年)に収録されている。
*TAO LABより
12回に渡り、中川先生の論文を掲載させていただきました。
いかがでしたでしょうか?
中川先生+同志社大学、および田中嫺玉さん、そしてこの書物を文字として残してくれた聖なる方たち、さらにこの書物をさまざまなカタチで紹介してくれている探求者の皆さま、あらためましてありがとうございます!
時空を超え、国境を超え、宗教を超え...普遍的な真理を伝えてくれている『バガヴァッド・ギーター 神の詩』が激動の「今」という時代を共に生きる皆さまのなんらかの指針、励ましになったら幸いです。