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「民族の危機」岡潔 解説:横山賢二
【12】向上の意欲を (意欲ー感情の季節に)
*昭和44年(1969)1月 - 2月 大阪新聞より
生後12ヶ月位になると、子供は色々な全身運動を始める。私の孫の洋一はいろいろな美容体操をして見せて呉れた。焼芋ころころや、お手々をぶらぶら・・・をするのも大好きであった。この頃は一時に一事しかしない。蜜柑の袋を一つ口に入れている時、祖母が新しい一袋をやろうとすると、前のをぷっと吐き出してから新しいのを受け取った。
これは自分と云うものの真の中心を作ろうとしているのだと思う。そして生後16ヶ月位になるとそれが出来上がるらしい。それまで「ほたほた」笑っていた洋一が、その頃から「にこにこ」笑うようになった。生後12-16ヶ月を運動の季節と名づけることにする。
この季節が過ぎると意欲が出始めるようである。生後16ヶ月以後を意欲の季節と呼ぶことにする。意欲の季節に入っても、一時に一事はなおしばらく続く。生後30ヶ月位になると感情が動き始めるようである。生後30ヶ月以後を感情の季節と云うことにする。意欲の季節と感情の季節とは重なった部分が出来るわけである。
さて、家庭の内容であるが、神秘の季節には春のような雰囲気にして置いてやればよいと思う。情緒の季節以後は、単に春のような雰囲気と云うだけでなく、時々は笑いさざめくこともしてほしい。また子供の信頼を裏切らないようにしてほしい。
意欲の季節には、家庭は真の意味の向上の意欲を持たなければならぬ。向上心の弱い子が出来ると本当に困ることになる。感情の季節に入れば、話せなくても大人の会話に入りたがると思う。加えてやって欲しい。また、この頃からかく絵に、ものの特徴が出始める。その前から普通画は描きたがる。描かせてやって欲しい。
*解説12
2014.04.16up
岡は前回と今回の記事で「童心の季節」3ヶ年のポイントを克明に描写している。初めからいうと「神秘の季節」「情緒の季節」「運動の季節」「意欲の季節」「感情の季節」となるのである。しかし、後々この区分は、更に正確に修正されていくことになる。
日本には昔から「三ツ子の魂百までも」という諺があるが、この「童心の季節」は人の心の中核(第2の心)の時期であって、西洋心理学でいうところの「自我(第1の心)」はまだ生まれていないということを、我々はここで確認しておかなければならない。
日本では岡がいうように「童心の季節」3ヶ年で深層の「第2の心」が形成され、しかる後に「第1の心」である「自我」がその上に形成されていくという構図になっているのだが、西洋では「自我の世界観」が強いため、その「自我」のメガネでのみ「童心の季節」を見てしまって、生まれると直ぐに「自我」が芽生えはじめると考えているのではないだろうか。
残念ながらこの思い違いが、今日までの日本の心理学や教育学の長期にわたる致命的な誤りの元凶となっているのである。つまり日本では西洋心理学へのコンプレックスから、「童心の季節」を西洋の「自我の世界観」で把握しようとしたため、まるで日本人の実情とは合わないトンチンカンな教育論、育児論になってしまっているのである。