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「民族の危機」岡潔 解説:横山賢二
【11】 大切な〝童心の季節〟 (生後8か月で情緒が)
*昭和44年(1969)1月 - 2月 大阪新聞より
よい子を宿してよく胎教をする。その後をお話しよう。生後3ヶ年を童心の季節と、私は言っている。何故そう言うかと言えばこの時期にはまだ子供には自分(自我)と言うものが無いからである。
この時期に子供は家庭と言う環境から取って、自己の中核を作ってしまう。これは其の後には(宗教の力によらなければ)もう変えられないのである。だからこの時期の家庭は十分よくなければいけない。
取り分け母親は子を可愛がってやらなければいけない。母親が職業の為に昼は子供から離れて、夜だけ十分可愛がってやるのでは足りないか、と聞かれても、ここの研究は非常に難しくて、そんな細かい点まではまだわかっていないのである。だから十分大事をとって、そんなことはしないようにして欲しい。
童心の季節は一口に言えば家庭の内容を出来るだけよくすることであるが、特にどう言う点が大切かを少しでも知るため、この3ヶ年をよく観察してみよう。
生後8か月は、子供の生い立ちは全く神秘の霧に包まれている。今の私には殆どわかっていない。概して子供はただすやすや眠っている。時々にんまり笑う。こんな小さな子が、まだ頭も何も出来ていないだろうに、もう夢を見るのだろうか、どんな夢だろう。ともかく、この生後8ヶ月を「神秘の季節」と呼ぶことにしよう。
生後8か月位になると、子供は時々なんだか非常に遠い昔を思い出しているような目の色をする。もう情緒が動き始めたのである。この間4ヶ月位で一通り情緒が備わるらしい。この生後8-12ヶ月を情緒の季節と呼ぶことにしよう。
*解説11
2014.04.16up
ここで敢えて取り上げたいのは、母親の「共稼ぎ」のことである。戦後はアメリカ流の「男女共同参画社会」の名のもと、母親の共稼ぎが奨励されてきたし、今も女性の職場進出が相変わらず押し進められている。
これは経済的、物質的な面からすれば仕方のないことかも知れないが、人の本質が岡のいう「心」だとすれば、子供の健全な「心の成長」、つまり人間形成の面では大変なマイナスではないだろうか。これはつまるところ、社会の致命的な劣化にもつながりかねない由々しき問題である。私には何か目に見える「物質」を取って、目には見えない「心」を捨て去っているように思えてならないのである。
ここで岡は「母親は子供を可愛がってやらなければいけない」といっているが、特に日本人は「情の民族」だから人の心の中核である「情」というものを、その童心の季節に母親が子供に最大限に注入しつづけてやることが何よりも重要ではないだろうか。
この「情」という基盤が心の中にしっかりと形成されていないから、今日のように教育上のあらゆる問題が起きるといっても過言ではないのである。女性として天から与えられたこの上なく大切で神聖な仕事を他人任せにして、果してそれで女性の本当の幸福と生甲斐があるのだろうかと私は思うのである。