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this IZU. COLUMN 学芸員の独り言-Re Edit ver-
サイカス・シンプリシピンナ
*TAO LABより
3回目のRe Editはこちらです。
清水さんよりいただいたメールより
「次回はサイカス・シンプリシピンナを載せて下さい。遺伝子保存に関する、大切な情報が出ています。」
*2012年04月11日
サイカス・シンプリシピンナ
ワニ園には私が積極的に種子導入して増やしたこともあって100種以上のソテツ類植物のコレクションがある。しかしその多くは産地情報のはっきりしない、要するに名前だけのコレクションで、これを英語ではスタンプブック・コレクションと呼ぶ。要するに切手帳にあれこれ切手を集めて楽しむようなもので、原産地情報というかその植物のパスポートデータが付随していないと、植物学的には殆ど無意味のコレクションと目されてしまう。分類の見直しや細分化が進むソテツ類では、種名よりもどこで採集された植物であるかが重要なのである。メキシコのラウー氏が送ってきたソテツの種は、産地情報が付いていたために、2度、3度と種名が変わってもちゃんと分類を追うことができる。しかし園のコレクションの基本をなす1970年代に導入されたオニソテツ類(Encephalartos)は、いくつもの業者の手を経てアフリカから輸入された植物のため何の情報もついていない。貴重な植物ではあっても、花粉銀行とか自生地へ戻すような植物保全のための活動には一切使えないのである。どこの馬の骨かわからないからである。
画像のソテツはソテツ属のサイカス・シンプリシピンナ(Cycas simplicipinna)。16年前友の会の旅行で訪ねたタイのチェンマイ郊外で採集した、出所由来のはっきりした植物。しかも採集した2株がうまい具合に雄株と雌株で、毎年種を採集することができる。雌雄の株が揃わないと種も採れないソテツ類にあって、これは希有な例で、貴重なペアと言える。当園ではセラトザミア(Ceratozamia)やマクロザミア(Macrozamia)など何種類かのソテツで種を穫ることは可能だが、以上のような理由で、植物園同士でやりとりできるような情報を添えることが出来ず無駄になることが多い。
画像は出始めた雌の球果(=雌花の意:左)と雄の球果
それでは世界レベルでコレクションの質はどうなのかというと、実はまだ緒についたばかりでお寒い限り。原産地情報のはっきりしたコレクションの重要性を訴え、それを実践しはじめたアメリカ、フロリダ州のフェアチャイルド植物園やモンゴメリー財団でもたかだか15年か20年の歴史しかない。アジアではタイのノンノッチ植物園がリーダー格。1つの群落、もしくは産地で5株の雌株から5粒づつ計25粒の種を採集し、実生苗から5株の雌株が作れれば、その地域のソテツの遺伝子の多様性の97%が保存できるのだそうである。仮に日本のソテツを例にとれば、石垣、西表、沖縄等の島ごとに種を採集し5x5x5のシステムで保存すれば、日本のソテツの多様性が保存できるという論理である。世界の300の植物園が、このようにして各園1種づつ保存してくれれば、絶滅に瀕している300種余のソテツを永久に保存できるという説が、当時モンゴメリー財団のトップだったテランス・ウオルタ-博士の提言だった。
*10月6日時点での最新の「学芸員の独り言」
*追記
10月後半に熱川バナナワニ園の清水さんを訪ね、案内していただくこんな企画も立ち上げています。
ご興味のある方はぜひ!お越しください。
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