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this IZU. COLUMN シャボテン便り
金鯱(キンシャチ)というサボテンについて
*TAO LABより
伊豆シャボテン動物公園の真鍋さんの「シャボテン便り」。
優しい人柄と植物+自然愛溢れる眼差しをお楽しみください。で、百聞は一見にしかず〜シャボテン動物公園をぜひ!訪ねてみてください。
*真鍋憲一(まなべけんいち)
昭和42(1967)年6月17日生まれ
平成3(1991)年 九州東海大学(現東海大学)卒業
平成3(1991)年 伊豆シャボテン公園(現伊豆シャボテン動物公園)に勤務
以来、ほぼ28年間、植物の事を見続けながら、植物管理作業を中心に仕事をしてきました。
趣味は山登り。伊豆の自然と、メキシコのサボテンなどを中心とした乾燥地に生きる植物達の自然、どこが違っていて、そしてどこが同じなのか自分も学びながら、自然の面白さを伝えていきたいなあ、と考えて過ごしています。
*金鯱
植物に魅せられこの公園で28年間、植物を見続けてきましたが、その中でも特に変わった姿をしていて誰もがその存在を知っている植物がサボテンではないでしょうか。
その中でも、最もサボテンらしい姿をした「サボテンの王様」と呼ばれる、金鯱(キンシャチ Echinocactus grusonii サボテン科)があります。
金鯱(キンシャチ)とは、黄色い美しいトゲを持った、とても大きくなる丸いサボテンです。
サボテンを愛する方なら、誰でも一度はご覧になったことがあるほどよく知られている種類で、園芸店のサボテンコーナーの常連でもあります。
伊豆シャボテン動物公園にも、もちろんこの金鯱があります。この公園の中でも一番大きな温室、第5温室(メキシコ館)で、黄色いトゲを輝かせながら堂々と一番目立つところに鎮座しています。
大きなもので250㎏以上!大きさは1m20cm位あります。お相撲さん2人分くらいの重さです。自慢ですが、日本でもここまで大きな丸いサボテンは、他では見ることが出来ないのですよ。(エッヘン!)
でもこの金鯱、生まれたばかりの時はマッチ棒の先位の大きさしかありません。
サボテンも普通の植物と同じように、種(種子)から育ちます。この種がまた、ゴマのように小さな種なのです。
これを土の上に蒔き、種を播いた鉢ごと水の入ったお皿に浸けて、たっぷりと水をあげると、2週間から3週間位で小さなサボテンの赤ちゃんが生まれます。実は、生まれたばかりの赤ちゃんにはトゲはなく、アサガオやヒマワリと同じように双葉(ふたば)が生えています。(写真のサボテンは、少しだけ生長しています。)
この小さなサボテンが、時間をかけて陽の光と水を浴びながら、じっくりと大きくなっていくわけです。
ところでこのサボテン、寿命は何年ぐらいあるのでしょう。
実をいうと、私がこの公園に入社したばかりの頃(勤続28年!)、100歳を超えていたサボテンが今も元気に育っています。これは私の想像ですが、このサボテン、樹と同じで状態さえよければ何年でも生き続けるのではないか?と考えています。誰もがサボテンを見続けながら何年間も一緒にいるわけではないので、人間が確かめるのは難しいかもしれませんが。(あっ!私がそれに近い仕事なんだ!)
私が正確に知る限りでは、1994年に種を播いた金鯱が、今、バレーボールよりも少し小さいくらいの大きさで元気に育っています。さてこの子が、1mを超える位の大きさになるまでには何年かかるのか? 楽しみではあります。(見届けることは難しいかな?)
ちなみにこの金鯱というサボテン、一番最初の花が咲くまでには、40~50年くらいかかるといわれています。
このよく知られているサボテンの金鯱、実は自生地のメキシコでは、ほとんど絶滅寸前という事をご存知でしょうか?
「えっ!」と思われる方もいるかもしれません。私は思いました。どこの園芸店、植物園の温室でもふつうにみることの出来るサボテンなのに!どこにでも売られているサボテンなのに!
いま世界中で出回っているこの金鯱たちも元をたどれば、メキシコのごく限られた自生地から、昔、種などを採取して育てられたものです。
ところがこの金鯱が100年いやもっとそれより前から生き続けてきた自生地が、ダム開発により水の底に 沈んでしまったのです。
今を生きるためのエネルギーか?、環境保護か? 人間の手により、幾つかの金鯱が移動、移植を試みられたようですが、自生地の環境が違うためか結果は思わしくなく、いま野生の状態ではほとんどこの金鯱を見ることが出来ません。(最近新しいコロニーが発見されたようですが、それでも数は限られています。)
元々、環境にさえ馴染めばとても育て易いサボテンで世界中で育てられているため、皮肉なことに種としての絶滅だけはないそうです。
今や第2の故郷となった、この公園で健やかに生き続けている金鯱たち、このサボテンと生き続けながら、サボテンやサボテンを通した植物達のおもしろさを伝えていきたいものです。