MAGAZINEマガジン
「自他一如」〜医の現場から見えること〜 by 岡田恒良
第二十二回『攻殻機動隊と寅さん』
寅さんの映画は本当に長きにわたって愛され続け、いまでもテレビ放映が続いています。
寅さんこと車寅次郎や渥美清を知らない人は、もう日本にいないと言っていいかもしれません。それほどに親しまれ、愛されているのは、はたして寅さんなんでしょうか?それとも渥美清さんなんでしょうか? 或いはその両者が混在しているのかもしれません。いずれにしても役名や俳優名にすぎないわけで、素の寅さんではないわけです。
寅さんを演じる渥美清を演じている方がいます。その名はあまり知られていませんが、田所康雄さんというらしいです。その田所さんのことが大好きだと言い切れる方はなかなかおられません。家族とほんのわずかの取り巻きにしか日常生活を見せず、共演者すらもお住まいを訪ねたことがないということです。
ですから田所さんは、スタッフに対しても渥美清で接し、それこそ演じきっているのです。そして内輪の家族の前でのみ田所康雄として夫や父を演じていたわけですね。
では寅の演技をする渥美の演技をする田所を演じているのは誰か!それこそが自己なんでしょうが、その正体がわからない。素の自分を探す、巣の自分を知ってほしい、また知られたくない、そういう微妙な思いを誰もが持っています。個人情報を知られたくないけど、沢山の知人が欲しい!私生活は秘匿して有名になりたい芸能人というわけです。矛盾してますけどね。
「個人と社会」というテーマの小論文がかつて小林秀雄氏によって書かれました。
その要旨は個人は定義できない、またどこにもいないということなのです。あなたは誰なのか、身体か、脳か、心か、遺伝子か、豊かな経験か、多彩な知識か、情報か!それに明快に答えられる人はいませんし、それでいいのです。
名で人を呼ぶわけですが、その名は相手によってころころ変わるということがお分かりですか。家ではおとうさん、喫茶店では小林さん、会社では部長さん、社長の前では小林くん、飲み友達からはおい小林!、久々に会う甥からは叔父さんと呼ばれます。相手を変え、名を変え、演技を変えて生きています。本当の名は何処にもなく、しかしどれもがその人を表します。たくさんのキャラクターの集合体でできたのが自己の正体かもしれませんが、その中心となるものが果たしてあるのでしょうか?
攻殻機動隊(GHOST IN THE SHELL)は士郎正宗原作/押井守監督の劇場アニメです。
2029年、人工頭脳と人工臓器が発達、大多数が電脳化した脳を持ち、サイボーグ化している世界。その一人草薙素子は公安9課に所属し犯罪捜査を担うのですが、ある事件がきっかけで人とサイボーグの境界のような「人形使い」という名の義体と出会うことになります。その義体は訴えかけます。自らを人として認め、人権を要求する義体には、実はゴーストという魂が挿入されていたわけです。人権を要求する義体に、なんと答えましょう。
進化し知性を持ったコンピューターが自己判断し、自己反省する姿はかつての映画「2001:A Space Odyssey」邦題2001年宇宙の旅でHAL9000としてすでに登場しています。
身体の一部が義体や機械であるから人でないというのは論拠にはなりません。それこそ差別発言にされてしまいます。
考える力が人の根源なら、それはどこから来るのか。言葉や文字、数などが情報のもとであること、異論はないと思います。自己の本質が情報であるなら、サイボーグ化した「人形使い」に人権を与えなくてはなりません。
人とはなんでしょう?
自己とはなんでしょう?
自他の違いはなんでしょう?
...続く
*著者 プロフィール
なごやかクリニック院長
名古屋醫新の会代表
岡田 恒良(おかだつねよし)
https://www.facebook.com/tsuneyoshi.okada1
1955年岐阜県生まれ
1980年岩手医科大学卒
約20年消化器系一般外科医として通常に病院勤務。市民病院で外科部長として勤務中、ある先輩外科医との運命的出会いがあり、過剰医療や過剰投薬の現状に気づき、自然医学に目覚める。
1999年千島喜久男博士の勉強会を名古屋で主催、マクロビオティックの久司道夫氏の講演会企画をきっかけに病院を辞職。
御茶ノ水クリニックの森下敬一博士の機関誌《国際自然医学》に「自然医学の病態生理学」を長期連載。中山武氏の主催するがんの患者会「いずみの会」の顧問をしながら安保徹教授の講演会を開催し、親交を深めた。
看護学校にて補完代替医療について講義中。
2006年コロンビアのドクトル井上アトム氏に出会い、運動療法・自然療法の重要性を認識。以来南米に3度訪れる。 「自他一如」の探求は2000年から続く。
*TAO LAB より
余談ですが「フーテンの寅=男はつらいよ」1969年の第1作公開から本年で50年。
原作者の山田洋次監督がそんな節目の年の公開に向け、前作から22年ぶり、50作目となる新作に挑むことになったそうです。山田監督が新たに脚本を執筆。妹さくら(倍賞千恵子)や夫・博(前田吟)、おい・満男(吉岡秀隆)ら寅さんファミリーが一堂に会し、寅さんの故郷、東京・葛飾柴又でのロケも予定されている。主演はもちろん、渥美清さんby田所康雄さん。過去の名場面を織り込み、場面を展開するらしいです。
山田洋次監督は、「フランソワ・トリュフォー監督が『大人は判ってくれない』のジャン=ピエール・レオーを20年後に起用して青春映画を作っていたが、『男はつらいよ』は毎年毎年、継続して年に2回ずつ成長の記録を追いかけてきた。一人の少年の精神世界の成長を描いて大人になってしまうまでを、なんとかして映画にして、面白く伝えられないか。何年も前から考えていたことが、50周年を機に実現できる」と新作への思いを明かし、「主演はあくまでも渥美清であることが大事。その上で、いま、僕たちは幸せかい? との問いかけが、この作品のテーマになるんじゃないかと思う。新作の中で、この映画の全ての登場人物に観客は出会えるんじゃないかと思っている」とコメントしてます。
昭和平成に続き新しい年号が始まる年にこのシリーズの新作が観れるなんて〜粋な計らいですね!
2019年12月27日(金)『男はつらいよ50 おかえり、寅さん』(仮題)全国公開とのこと。