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「自他一如」〜医の現場から見えること〜 by 岡田恒良
第九回 東洋医学での夏の養生
この東アジアには東洋独特の世界観があります。鍼灸や漢方で知られる東洋医学の根底にあるのが、陰陽五行と言われる統一体感です。
"陰陽五行"には、天体宇宙、季節、暦、時間、方位、色彩、臓器、感情、味覚、知覚などが包括されています。
陰陽とは、万物を陰陽の物差しで見るということです。
昼夜、上下、南北、明暗、寒暖、大小、伸縮、静動、などと挙げればきりがありません。そして両極を見極めた上で、常に中庸を心がけるという態度が必要です。また、陰極まって、陽転するということもあります。
五行という概念は本当に味わい深いものです。元素は西洋科学では111種類などと言われ周期表に表されていますが、実態とかけ離れた感が否めません。五行での元素は木火土金水を言います。
木が燃えて火になり、火が消えると土になります。土が固まると金となり、金の周りに水が生成します。最後に水が木を養います。この五元素の循環を五行相生(相生そうせい=あいいかす)と呼びます。
反対に、木が土を掘り起こし、土は水を堰き止めます。水は火を消し去り、火は金を溶かします。最後に金は木を切り倒します。この関係は相克といい、抑制が働くことを示します。この基本を十分に理解しないといわゆる東洋医学を理解できません。
奈良の高松塚古墳には、すでに陰陽五行に基づいた壁画が描かれていました。東南西北の順に、青龍、朱雀(欠損しているが)、白虎、玄武があり、青赤白黒を表しています。これは木=東=青、火=南=赤、金=西=白、水=北=黒という五行色体表に基づいているのです。土=中央=黄は、ここでは省かれています。
木火土金水は、もちろん臓器と関連付けられています。代表的な五大臓器である、肝臓、心臓、脾臓、肺臓、腎臓が、それぞれ木火土金水に当てはまります。
木=肝臓というのは、栄養を土から吸い上げるため、相応しい臓器ですね。火=心臓は激しい火の臓器という表現にピッタリ。土=脾臓は消化器の代表で、土にふさわしい臓器です。金=肺臓が結びつくのは、水蒸気を生むということでしょうか。そして水=腎臓は、尿を作る腎臓なので当然ですね。
今は盛夏、五行の火に当たる時期で、これに相当するのが、心臓と小腸です。そして午の刻(11:00〜13:00)が心の経絡の活発になる時であり、午前の陽が午後の陰に入れ替わる時です。この時期心の養生が大切になります。そのために重要なポイントの一つが、この時間内に短い午睡を取ることです。ほんの15分でもいいのです。昼食はその後に食べたほうがいいと、中医学では教えます。心の経絡が旺盛すぎることで起こりやすい、口内炎や苛立ち、不眠などを、午睡によって抑えます。
心経を調整し、精神を安定させるもう一つのポイントは、「神門」という心経のツボをマッサージすることです。
「神門」の場所は、手関節屈側の小指側、つまり手首の横じわの小指側の少し窪んだ場所です。反対の手の親指を使って、「痛気持ちいい」程度の強さで30回ほど押します。まず左手首を次に右手首をマッサージしましょう。夏の心臓の養生として覚えておきましょう。 ...続く
*著者 プロフィール
なごやかクリニック院長
名古屋醫新の会代表
岡田 恒良(おかだつねよし)
https://www.facebook.com/tsuneyoshi.okada1
1955年岐阜県生まれ
1980年岩手医科大学卒
約20年消化器系一般外科医として通常に病院勤務。市民病院で外科部長として勤務中、ある先輩外科医との運命的出会いがあり、過剰医療や過剰投薬の現状に気づき、自然医学に目覚める。
1999年千島喜久男博士の勉強会を名古屋で主催、マクロビオティックの久司道夫氏の講演会企画をきっかけに病院を辞職。
御茶ノ水クリニックの森下敬一博士の機関誌《国際自然医学》に「自然医学の病態生理学」を長期連載。中山武氏の主催するがんの患者会「いずみの会」の顧問をしながら安保徹教授の講演会を開催し、親交を深めた。
看護学校にて補完代替医療について講義中。
2006年コロンビアのドクトル井上アトム氏に出会い、運動療法・自然療法の重要性を認識。以来南米に3度訪れる。 「自他一如」の探求は2000年から続く。