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「自他一如」〜医の現場から見えること〜 by 岡田恒良
第三回 タンパクはレゴ
端的にいってタンパク質は一本の鎖状物質で、生体で最も重要なものの一つです。20種類のアミノ酸が一列に整列しているので、紐解けば直線になりますが、実際には複雑に絡み合っています。20種類のアミノ酸は少しずつ性質が異なり、電気的にプラスのアミノ酸とマイナスのアミノ酸があります。ですからお互い引かれ合う場合と、反発し合う場合があります。形状記憶合金さながらに、アミノ酸配列が同じなら、タンパクの紐は、いつも同じように絡み合うようになります。ですから一定の形状を保ち、くぼみや突起ができます。こうして様々な形状を作り出すことができるのが、タンパク質です。くぼみを利用して物を捉えるのが酵素です。タンパクはレゴなのです。
お肉を食べても、豆を食べても、レゴの部品であるアミノ酸に消化され、バラバラになります。そして体内でそのアミノ酸を再度組み合わせるのです。脂質と異なり、どのタンパクを食べようが、アミノ酸に分解されてしまうので、元の形状はあんまり関係ありません。レゴでできたお城や飛行機などを見て、それが欲しいと思っても、購入すると、バラバラのレゴの部品に過ぎません。それと同じで、完成品はそのまま体内には入りません。動物のコラーゲンを食べても人体のコラーゲンになるとは限りません。
タンパクはアミノ酸を材料にして細胞内で再構築されます。アミノ酸配列を決めているのは、メッセンジャーRNAです。そこには隣に来るアミノ酸が指定されています。予め決められているように、特定のアミノ酸が次々とつなぎ合わされていきます。これがタンパク製造工場リボゾームの姿です。そのメッセンジャーRNAは、核のDNAからコピーされて作られています。ですから、タンパクを構成するアミノ酸の順番は、ひいてはDNAによって決められているということです。
ですからわずかな個人差を保ちながら、細胞は毎日いつも同じタンパクを作り続けることができます。これをセントラルドグマと呼びます。DNA→RNA→タンパクの順に命令が下されることです。
ところが、生き物は全く新しいタンパクを作ることもできます。設計図もないのに、新作のタンパクは、どうやって作るのでしょう。この新作のタンパクは、免疫グロブリン(抗体)という名の、免疫タンパクです。新手の異物に対しての新しい武器です。敵の形状に合わせて、その一部を無能にするような新形状のタンパクを作りあげます。ということは、必要とあらば、人体はどんな形状のタンパクも作り上げることができるというわけです。ではこの時、メッセンジャーRNAはどこから手に入れるのでしょう。これが長い間わかりませんでした。この仕組みを明らかにしたのが、日本の利根川進博士です。必要なタンパクを作るために、RNAを切り貼りできたのです。不変と思われていた遺伝子は、実は切り貼りできるのです。新聞の文章は、どの家庭に配達される新聞紙でも全く同じですが、文字を切り貼りすれば、どんな文章も作れます。そんなことを生き物はしていたのです。セントラルドグマの例外です。 ...続く
*著者 プロフィール
なごやかクリニック院長
名古屋醫新の会代表
岡田 恒良(おかだつねよし)
https://www.facebook.com/tsuneyoshi.okada1
1955年岐阜県生まれ
1980年岩手医科大学卒
約20年消化器系一般外科医として通常に病院勤務。市民病院で外科部長として勤務中、ある先輩外科医との運命的出会いがあり、過剰医療や過剰投薬の現状に気づき、自然医学に目覚める。
1999年千島喜久男博士の勉強会を名古屋で主催、マクロビオティックの久司道夫氏の講演会企画をきっかけに病院を辞職。
御茶ノ水クリニックの森下敬一博士の機関誌《国際自然医学》に「自然医学の病態生理学」を長期連載。中山武氏の主催するがんの患者会「いずみの会」の顧問をしながら安保徹教授の講演会を開催し、親交を深めた。
看護学校にて補完代替医療について講義中。
2006年コロンビアのドクトル井上アトム氏に出会い、運動療法・自然療法の重要性を認識。以来南米に3度訪れる。 「自他一如」の探求は2000年から続く。